今回は社労士やFPなど年金を学んでいる人向けのお話です。
在職老齢年金は令和4年4月に法改正されたこともあり、年金相談でも関心が高いですね!
その在職老齢年金のイメージが少し変わるかもしれない話です。
在職老齢年金という言葉の違和感
突然ですが、「在職老齢年金」という言葉、何か違和感がありませんか?
ざっくり言うと、「働きながら年金を受給すると年金額が調整される場合がある」制度なのですから、その名称は「在職調整制度」や「在職支給停止制度」の方がしっくりくると思いません?
「在職老齢年金」というと、まるで「在職しているからもらえる年金」のような感じがしてしまいます。
じつは…
もともとの意味は、それに近いものがあるのです!
今回はこちらの資料を使って話をしていきますね。
やや古い資料なのですが、在職老齢年金の歴史についてまとめられています。
在職老齢年金のはじまり
厚生年金制度の老齢年金は、昭和29年に現在に近い形になりました。
当時は、老齢年金の支給について、年齢に加えて「退職」を要件としており、在職中は年金を支給しないことが原則でした。
しかし、この仕組みでは高齢者が低賃金で働いていると年金が貰えなくなってしまうという弊害がありました。
そこで、昭和40年に「65歳以上の在職者にも支給される厚生年金」の制度が新たに創設されました。
これが「在職老齢年金」のはじまりなのです。
「退職+老齢」によって支給する年金を
「在職+老齢」でも支給できるようにした
ということですね。
在職老齢年金は、元々は年金の支給を「停止する制度」ではなく、在職によって支給されない年金を「支給する制度」として制定されたものなのです。
それならこの名称にも納得がいきますね!
その後の在職老齢年金の変遷
在職老齢年金は、「在職者に年金を一律8割支給する制度」としてスタートしました。
その後、何度か形を変えて現在の仕組みになっていきます。
支給する割合の段階を増やしたり、適用される年齢を拡大したり。
制度の見直しの過程では、次の要請がありました。
1.働いても年金が不利にならないようにすべき(就労を阻害しない観点)
第4回社会保障審議会年金部会 資料2 P1より
2.現役世代とのバランスから、一定の賃金を有する高齢者については給付を制限すべき
この二つは、相反するものですね…
社会保障制度の設計の難しさが感じられます。
その結果、「在職老齢年金」は現在のこちらの形になりました☟
賃金(ボーナス込み月収)と厚生年金(報酬比例部分)の合計額が基準額を上回る場合には、賃金の増加2に対し、年金額1を停止する。
第4回社会保障審議会年金部会 資料2 P6より※(一部修正)
※この資料ではあくまでも考え方を示しているので、「総報酬月額相当額」「基本月額」といった用語をあえて使っていないものと思われます。
年金相談の実務において
在職老齢年金の成り立ちがわかったところで、この知識を年金相談にどのように活かすか。
(年金に直接かかわっておられない社労士の先生は、顧問先の社長さん等から尋ねられたときをイメージしてみてください。)
私の経験からすると、働く年金受給者の方に対して今回の知識が『水戸黄門の印籠』のように使えるわけではありません。
やはり当事者からすると年金の停止は不服に感じるものなので、「昔は在職中の方は貰えないのが当たり前だったんですよ!」と言われても、それ一発で「そうか!」と納得できるものではないですね。
ただ、もし「年金制度がどんどん改悪されているから働いたら支給停止されるんだ」というように思っていたら、その誤解は解いて差し上げたいです。
むしろ、なるべく支払えるように改正を重ねてきたのですから。
それと、「年金は保険である」という基本はお伝えしたいです。
厚生年金”保険” は、そもそも「退職などで収入がなくなった後の保障という考え方で作られたもの」という話です。
リーフレットなどに書かれている厚生年金保険という名称をお見せしながら話します。
じつは、こういった説明の流れを対話形式でまとめた資料が厚労省のWebにあります。
在職老齢年金についての父と娘の会話に社労士が加わるというストーリーです。
こちらにリンクを貼っておきますね!
在職老齢年金の仕組み(厚生労働省Web)
父が社労士の解説を聞いて、それでもまだ不服に思いつつ、受け止め方が少し変わるというあたりは、なかなかそれっぽくできています。
まとめ
- 在職老齢年金は、元々は年金を停止するというよりは、退職していなくても年金を支給するための制度だった。
- 「高齢者の就労意欲」や「現役世代の賃金とのバランス」を考慮しながら、何度も改正を重ねて現在の形なっている。
いかがでしたでしょうか?
もしかしたら、「こういったことを初めて知った」という方もいらっしゃるかもしれません。
社労士やFPの方でもそうなのであれば、一般の方は、なおさら知らないはずです。
年金受給世代の方に少しでも気持ち良く働いていただけるように、この知識を広めていきたいですね。
それではこのへんで
いいことありますように!
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