ここでは、年アド3級の技能応用問題を解くための知識についてお伝えしていきます。
問-43.44の登場人物はG子さんとその夫、そして3人の子どもです。
夫を亡くされた(もしくは病気療養中)というG子さんに遺族年金等についてアドバイスするという設定です。
主なポイントはこちらです
- 寡婦年金や死亡一時金が支給されるかどうか?
- 遺族基礎年金の停止や失権など
- 遺族厚生年金の短期要件と長期要件(300月みなしの有無)
- 遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加算されるか?
国民年金の遺族給付
遺族基礎年金を受給できる人は?
遺族基礎年金は、国民年金の遺族年金です。
(単に配偶者または子というだけでなく、「死亡当時に生計を維持されていたこと」という要件もあるのですが、この問題では意識しなくても大丈夫です。)
『配偶者』なので、夫が死亡した場合は妻、妻が死亡した場合は夫が受給できます。
「子」には年齢等の要件があります。障害基礎年金のときと同じです。
子どもがいない夫婦や、子どもがいてもすでに「子」に該当しない年齢になっている場合は、遺族基礎年金は支給されません。
遺族基礎年金の年金額
遺族基礎年金の年金額は次の通りです(配偶者が受給する場合)。
816,000円+子の加算額
(令和6年度・昭和31年4月2日以後生まれ)
遺族基礎年金の停止や失権など
次の3つのポイントは、ほぼ毎回出題されます
- 遺族基礎年金は子の加算額も含めて配偶者に全額が支給される。そして配偶者が受給している間は子に対する遺族基礎年金は支給停止される。
- 遺族基礎年金を受給している配偶者が再婚した場合は次のようになる。
配偶者→失権する
子→失権しない※ - すべての子が子の要件から外れたときには、遺族基礎年金の受給権は消滅する。
※の詳細(3級範囲外の予備知識です。)
親が再婚しても子の受給権は失権しません。しかし、子の受給する遺族基礎年金は生計を同じくしている父・母がいる場合は支給停止されるので、再婚先で養育されているのであれば、「権利は無くならないものの支給はされない状態」になります。遺族厚生年金の方は扱いがちがっており、親が再婚した場合は子が受給できます。(細かい知識なので、年アド3級でここまで問われたことはないです。)
国民年金の遺族給付には、遺族基礎年金の他にも、「寡婦年金」「死亡一時金」があります。
寡婦年金
寡婦年金は、一定の条件を満たしている夫が年金を受給しないまま死亡した場合に、その妻が60歳以上65歳未満の間に受給できるものです。
『寡婦』とつく年金は『妻』限定です。夫には支給されません。
寡婦という字が難しい感じがするので、以降は『かふ年金』と呼びます。
このようなイメージです☟
なお、若い頃に夫を亡くし、過去に遺族基礎年金を受給していた妻でも、その後60歳になったときに『かふ年金』を受給することができます。
『かふ年金』の主なポイント
- 夫が国民年金の第1号被保険者として保険料を10年以上 納付もしくは免除等している
- 夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給することなく死亡
- 夫との婚姻期間が10年以上継続
技能応用編では事例の設定上2と3の条件は満たしているので、1の部分を判断できればOK
ちなみに、『かふ年金』の年金額は夫が受給できるはずだった老齢基礎年金の年金額×3/4相当額です。
また、老齢基礎年金を繰上げ受給すると『かふ年金』の受給権は無くなります。
死亡一時金
死亡一時金は、国民年金保険料のかけすて防止のようなものです。
国民年金の第1号被保険者として一定の月数以上の保険料を納付してきた人が年金を受給する前に死亡した場合に支払われるものです。
例えば自営業のご夫婦で「子」に該当する子どもがいない場合、どちらかが死亡したとしても遺族基礎年金は受給できません。
そんなときに条件を満たしていれば死亡一時金が支払われます。
死亡一時金の重要ポイントはこちらです。
技能応用編では遺族基礎年金が支給されないと問題にならないので、Gさんの死亡により妻が遺族基礎年金を受給できるようになっています。
つまり、事例の設定上Gさん夫婦に死亡一時金が支給さることはあり得ません!
選択肢に「死亡一時金は支給される」とあったら、その選択肢は「誤り」と考えていいです!
死亡一時金は、基本知識編では別の観点で出題されますので、こちらにまとめておきます。
自営業の夫婦の夫が死亡した場合、要件がそろえば妻には『かふ年金』の受給権が発生します。
→この場合、妻は『かふ年金』か『死亡一時金』か、いずれかを選択して受給します。
さらに、その夫が会社員だった期間もある場合は、要件が揃えば遺族厚生年金の受給権も発生します。
→この場合、『死亡一時金』は『遺族厚生年金』を受給しても支払われます。
ではここで、すかさずドリルを
すぐやる!ドリル
遺族基礎年金を受給できるのは( )のある配偶者もしくは子である。
子
配偶者が再婚すると( 配偶者 or 子 )の受給権は失権する。
配偶者
遺族基礎年金の子の加算額は( 2 or 3 )人目までは同額の約23万円である。
2
寡婦年金は、死亡した夫の第( ① )号被保険者としての保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が( ② )年以上あることが支給要件となっている。
①1 ② 10
遺族基礎年金を過去に受給したことがある妻は、寡婦年金を受給することができない 。( ○ or ✕ )
✕ できる
寡婦年金と死亡一時金の両方を受給する権利があるときは、寡婦年金を優先して受給する。( ○ or ✕ )
✕ いずれかを選択して受給する
遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金の遺族年金です。
遺族厚生年金の年金額
老齢厚生年金の報酬比例部分と同じ要領で計算して、最後に 3/4 を掛けます。
ざっくりいうと
被保険者期間の月数に特徴があり、300月みなしをすることがあります。
300月みなしは障害厚生年金にもありましたが、遺族厚生年金の場合は必ず300月みなしになるわけではありません!!
支給要件が『短期要件』なのか『長期要件』なのかでちがいます!
短期要件
本来必要な25年以上の受給資格期間がなくても遺族厚生年金の受給権が発生します。
短期要件に該当する場合は、例えば亡くなった夫が新卒一年目の会社員だったとしても、300ヵ月(25年間)厚生年金保険に加入したものとして遺族厚生年金の年金額を計算します。
短期要件の①②については、保険料を納めていたかという『保険料納付要件』も満たしている必要があります。
②は文章だけだとわかりづらいので、図解で補足しますね
例えば、会社員をしているときに病気が見つかって、その後しばらくしてから退職し、療養中にお亡くなりになったようなケースです。傷病と死亡の原因に因果関係があることが要件です。
5年という数字を覚えておかないと解けない問題がでることがあります!
退職日から5年ではないので注意です!
長期要件
25年以上の受給資格期間がある場合に受給権が発生します。
厚生年金保険と国民年金を合算して25年以上の受給資格期間(保険料を納めた期間など)が必要です。
技能応用編では遺族厚生年金が支給されないと問題にならないので、短期要件の①②に該当するかどうかを確認し、それに該当しなければ長期要件に該当していると考えてよいです。
長期要件の場合は300月みなしはされないので、実際の被保険者期間の月数を使って遺族厚生年金を計算します。
例えば厚生年金保険1年、国民年金24年でも長期要件の遺族厚生年金の対象になるのですが、年金額は実際の被保険者期間である1年(12ヵ月)で計算されます。
「短期要件に該当する場合で、かつ被保険者期間が平成15年4月をまたいでいる」という事例の計算式が出題されたことがあります。
この場合、H15.4の前後のA期間とB期間で報酬比例部分を計算して合算し、それを(A+B)で割ったうえで300ヵ月を掛けるという計算になります。
計算式で書くとこんな感じ。
(平均標準報酬月額×7.125/1000×Aヵ月+平均標準報酬額×5.481/1000×Bヵ月)÷(A+B)×300×3/4
出題頻度は低いですけど…
遺族厚生年金のその他のポイント
次の2つのポイントは、ほぼ毎回出題されます☟
- 子に対する遺族厚生年金は妻が受給権を有する間は支給停止される。
- 遺族厚生年金を受給している妻が会社勤めをして厚生年金保険の被保険者となった場合でも、妻に対する遺族厚生年金が支給停止されることはない。
中高齢寡婦加算
『寡婦』とつく年金を苦手にしている人が多いようです。
ご安心ださい!
技能応用編においては正誤判断のポイントは限られます。
- 中高齢寡婦加算が加算されるかどうか?
- 中高齢寡婦加算の額がいくらか?
特に「加算されるかどうか」が頻出です。
要件はややこしいのですが、技能応用編の場合は事例の設定上ある程度の要件を満たしていますので、確認する事項は限られています。
中高齢寡婦加算とは
字面が硬いうえに長いので、ここでは『かふ加算』と呼ばせていただきます。
ざっくり説明するとこんな感じです。
会社員の夫や会社員だった夫が死亡し、妻が遺族基礎年金を受け取れない場合に、遺族厚生年金に一定額を加算するもの
イラストで見てみましょう
厚生年金保険に加入している夫が亡くなった場合、子のある妻であれば、『遺族厚生年金』と『遺族基礎年金』の両方が受給できます(左)。
しかし、子のない妻は『遺族厚生年金』しか受給できないため、年金額が少なくなります(右)。
また、子のある妻でも年月の経過に伴って、子が子の要件から外れてしまいます。
すると『子のない妻』になるので『遺族基礎年金』の受給権は消滅して、『遺族厚生年金』のみになってしまいます。(左の人もいずれ右の人になる。)
そんなときに、年金額の大幅な低下を補うため遺族厚生年金に加算するのが 『かふ加算』 です。
中高齢寡婦加算の加算額
遺族基礎年金の基本額 × 3/4
令和6年度は816,000円×3/4=612,000円
妻の年齢の要件
中高齢~というだけあって、妻の年齢の要件があります。
技能応用編では、妻の年齢は事例の設定上気にしなくてもいい部分なのですが、ここがややこしくて『かふ加算』を苦手としている方が多いので見ておきましょう。
(基本知識編では出題されます!)
①夫の死亡時に妻が40歳以上であること。
年アド試験の基本知識編では「子のない40歳以上65歳未満の妻」と表現されます。
ちなみに、「妻が50歳で子供は25歳」でも、子のない妻に該当します。(年齢的に子の要件から外れているから。)
なお、夫の死亡当時に子がいて遺族基礎年金が支給される場合は、遺族基礎年金が支給されている間は 『かふ加算』 は停止されます。
技能応用編ではこのように「妻が40歳代で子がいる」事例が出題されます。
遺族基礎年金の失権後、妻が受給する遺族厚生年金にかふ加算が加算されます。
②夫の死亡時に40歳未満の妻の場合、40歳に達した当時に遺族基礎年金の要件の子がいること。
夫の死亡時に40歳未満の妻でも、子が子の要件から外れるときに40歳以上であれば、『かふ加算』が加算されます。
妻の年齢の要件をざっくりまとめるとこうなります☟
- 夫が死亡したときに40歳以上
- 遺族基礎年金の受給が終わるときに40歳以上
法律の条文表現とはちがうのですが、こう考えたほうが整理しやすいです。
夫の厚生年金の加入期間等
『かふ加算』が加算されるには、死亡した夫側の要件も満たしている必要があります。
(15年~19年に短縮される特例もあります)
厚生年金保険のみで20年以上です!
ただし、これは長期要件による遺族厚生年金の場合です。
「短期要件は300月(25年)みなしだから20年を余裕でクリアしている」と考えると覚えやすいです。
試験では次のフロー図で整理していおけば大丈夫です!!
①②③の順に当てはめていき、どれかに当てはまれば『かふ加算』が加算されます。
本来はこれ以外の要素もあるのですが、技能応用編の問題を解くうえではこのフローで対応できます。
ところで、かふ年金とかふ加算とがごっちゃになること、多いんですよね~
ざっくりでいいので区別しておいてください!
『かふ年金』→国民年金から支給されるもの
『かふ加算』→遺族厚生年金に加算されるもの
では、ドリルで記憶の定着を
すぐやる!ドリル
遺族厚生年金の年金額は、死亡した者の老齢厚生年金の報酬比例部分として計算した額の( / )の額である。
3/4
短期要件による遺族厚生年金は、被保険者期間を( )ヵ月みなしで計算する。
300
退職後の死亡でも、厚生年金の加入中に ( ① ) がある傷病によって( ① )から( ② )年以内に死亡した場合は、短期要件となる。
①初診日 ②5
在職中の夫(厚生年金保険に加入)が死亡した場合、妻が受給する遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加算されることはない(○or✕)
✕ 他の要件が揃えば加算されます。試験では、「現時点では遺族基礎年金が支給されるからまだ加算されないけど、将来的には加算される」パターンも「加算される」として答えます。
会社を退職してから8年が経過している夫が死亡した場合、妻が受給する遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が加算されるには、夫の受給資格期間が25年以上あり、そのうち厚生年金保険の被保険者期間のみで( )年以上あることが要件となる。(夫は障害者ではない。)
20
最後の問題はちょっとややこしいですね…
次の流れで考えます
①退職しているので厚生年金保険の被保険者の死亡ではない。
②初診日の記載は無いが、退職して8年ということは仮に初診日が退職の直前だったとしても確実に5年以上経過している⇒①②から短期要件には該当しない。
③長期要件の遺族厚生年金にかふ加算が加算されるには被保険者期間が20年以上必要。
本試験では、事例で初診日を明記していることもあれば、最後の問題のようにぼやかして出題されたこともあります。
以上、問43.44のインプットでした。
この分野は難しい論点が多いです。おつかれさまでした!
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